劇団クセックACT『ヌマンシア』

ヌマンシア

劇団クセックACTの『ヌマンシア』を観劇。とても良かった。


舞台中央に天井から吊るされて床まで届く大きなビニール地のキャンバス布がある。開演と同時に暗転、舞台横手からトボトボと歩き出す中年サラリーマンをスポットが照らす。彼は客席をゆっくりと横切って舞台にたどり着く。ごうごうと吹く風のような音を立てて大量のスモークが吐き出され、キャンバス布がうごめく。中に人がいる。キャンバスは落ちて舞台上に散らばり、ギュウギュウと音を立てて蠢く。9個に別れたキャンバスが舞台の縁に一列に並び、起き上がって白塗りの顔をのぞかせる。ヌマンシアの亡霊である。

「これはいったい何事ですか」という中年サラリーマンの問いかけに亡霊たちは口をそろえてヌマンシアの悲劇を語り始める。

ローマ軍に対し8ヶ月にわたる篭城戦を戦ったヌマンシアは、ついに限界まで追い詰められる。和平の交渉を蹴られたヌマンシアの男たちは、突撃をかけて敵にせめて一太刀浴びせて死のうと思いつめる。これを女たちが自分たちも一緒に死ぬと言って引き止める。この場面から、赤色の長い布が印象的に使われる。

頭上に被せた長い赤布の前の端を男優が持ち、後ろを女優が持って改めて登場する。これが4組だ。まず女が赤布を手繰りながら男に迫る。あなたが死ぬならわたしも死ぬ、というセリフが終わる頃には男も女も仰向けになり体を丸めて赤布を抱き、手足を宙にうごめかせている。最後の交わりが行なわれているのだ。次に女たちは立ち上がり、赤布を引っつかんで赤子に見立てて踊る。そして子どもらをも殺し、家財すべてを焼き払う決意を述べる。

ヌマンシアは炎に包まれる。ここでも天井から吊られた筒状の赤布が効果的に使われる。やがて死体が現れる。ここで赤布は血となり、再びキャンバス地をまとった亡霊たちの首元から長く伸ばして垂らされ、血の海を表現する。最後にあの印象的なポスターの形となる。ポスターの、赤い布に顔を包んだ女は、血に染まって死に絶えたヌマンシアの人々だったのである。あるいは、血塗れの、ヌマンシアの誇りを現わしていたのだ。実に見事ないいポスターだったと思った。



セリフ、動き、音楽、効果など、気の遠くなるような工夫と修練が盛り込まれて見る者を飽きさせない、非常に強度の高い舞台だったと思う。観ることができてよかったという満足感がある。

今日は名古屋公演楽日であった。客席は9割以上の入りに見えた。こういうレベルの表現であれば、どんな主題であれ、ちゃんと客は来るのだと思った。

この後、来週は福井、さ来週は大阪で『ヌマンシア』は公演されるそうだ。行ける人は行ったほうがいいと思う。


■公式HP
 http://www.ksec-act.com/stage.php




とりあえずはこれを観るために、おれは2月以来、劇場に足を運んできたのだと思った。

付け加えるとすれば昨日観たOrt-d.d「サド侯爵夫人 第一幕」。あのジャンベ馬乗り奏法の迫力。あれが「カラフル2」の最後でよかった。感動的なラストとなった。

「カラフル2」は16の劇団ショウケースであった。なにごとも「9割はクズ」(スタージョンの法則)ということか、ちゃんと面白かったのは2組ってところだが、半分ぐらいはまあ楽しめたのだ。なかなか贅沢な連休となった。主催者に拍手。